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障がい者の相続人がいる場合の障害者控除と生前対策
相続人の中に障がい者がいるケースでは、本人の意思能力の有無が相続手続きを進めるうえでの重要なポイントになってくるでしょう。また、障害者控除についても、どのように活用するべきか理解しておくことをお勧めします。
【この記事の要点】
- 一般障害者と特別障がい者の違い
- 障害者控除を受けるための要件
- 障がい者本人の意思能力に問題がある場合は成年後見制度を利用
- 障害を持つ子の将来を守る親の生前対策
この記事では、障害者控除について理解するとともに、障がい者の意思能力がどのように相続手続きに影響するか説明していきます。相続が開始してから慌てるのではなく、どのような心構えが必要なのか知っておくだけでもスムーズさが変わります。
相続税の障害者控除の適用要件
相続人の中に障がい者がおり、本人が財産を相続または遺贈を受ける場合、以下の金額を障害者控除として差し引くことができます。
【一般障害者に係る控除額の計算式】
(85歳-相続開始時の年齢)×10万円=障害者控除額
※「一般障がい者」とは、以下に該当する人を指します。
- 身体障害者3級から6級である者
- 精神障害者保健福祉手帳2級および3級を持つ者
- 療育手帳3度(中度)および4度(軽度)を持つ者(B・C判定)
- 戦傷者手帳第4項から第6項症の該当者
【特別障がい者に係る控除額の計算式】
(85歳-相続開始時の年齢)×20万円=障害者控除額
※「特別障がい者」とは、以下に該当する人を指します。
- 身体障害者1級または2級、あるいは精神障害者保健福祉手帳1級を持つ者
- 療育手帳1度(最重度)および2度(重度)を持つ者(A判定)
- 戦傷者手帳第1項から第3項症の該当者
- 原爆による被爆者として厚生労働大臣から認定を受けている者
- 常に臥床し生活のために複雑な介護を要する者
- 65歳以上で特別障害者に準じると市町村長から認定を受けている者
- 成年被後見人
障害者控除の適用を受けるための要件
障害者控除の適用を受けるためには、次に挙げるすべての条件を満たさなければなりません。
本人が相続または遺贈により財産を取得したこと
障害者控除を適用させるには、障害者である相続人が財産を相続あるいは遺贈により受け取ることが前提になります。
相続開始時点で本人が障害者であること
障害者控除は、障害者に対する税的な措置ですので、本人が障害者であるという客観的な証明が必要です。一般的には障害者手帳を所持していることで証明可能ですが、手帳を申請している最中であれば、医師による診断書を申告書に添付して提出することになります。
障害者本人が居住無制限納税義務者であること
障害者控除を受ける障害者本人が「居住無制限納税義務者」であることが求められます。居住無制限納税義務者とは、出生から相続開始時点まで日本国籍を持ち日本国内に在住する者のことをいいます。
結婚や仕事など何らかの理由から外国に在住した場合は、非居住無制限納税義務者に該当する可能性があります。また、日本国内に住所を持っているが実際には日本との関わりが希薄であると判断された場合、制限納税義務者とみなされることも考えられます。相続人である障害者の状況によって扱いが変わりますので、自分で判断できない場合は税務署に確認してみましょう。
障害者本人が法定相続人であること
障害者控除を受けるためには、法律上、本人が相続人となる権利を有していることが求められます。法定相続人とは、被相続人の配偶者・子・親・兄弟姉妹などを指しています。障害者本人が法定相続人であれば、仮に相続放棄したり遺贈を受けたりしたとしても、障害者控除の適用を受けることができます。
障害者本人が85歳未満であること
障害者本人が85歳未満であることが条件です。
相続手続きに影響する「障害者の意思能力」
法定相続人の中に障がい者がいる場合、障がい者本人の意思能力がどのような状態かにより、相続手続きの内容も変わってきます。相続税の納税申告期限は10ヶ月間と決して時間的余裕はありませんので、なるべく相続開始前から準備を始めた方がいいでしょう。
障がい者の意思能力が欠けている場合に備える
法定相続人となる障がい者の意思能力に問題がない場合は、特別な対応は必要なく、遺産分割協議を行い相続手続きを進めていくことができます。ただし、意思能力は個別に判断されるものであり、医師の診断で「意思能力を有していない」とされた場合は、以下の通り後見制度を利用して相続手続きに臨む必要が生じます。
裁判所に対する手続きは相応の期間を要します。相続税納税申告期限の10ヶ月以内を意識しながら、速やかに申し立てを行う必要があるでしょう。
法律行為を前提とした成年後見制度を利用
遺言書がない場合、すべての相続人による遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議への参加は法律行為になるので、本人に意思能力がない場合は成年後見人を選任し、障がい者本人に代わって協議に参加したり相続手続きを代理したりします。
成年後見人の選任申立
成年後見制度(法定後見制度)を利用するためには、以下の書類を揃えて管轄の家庭裁判所に申し立てます。
- 申立書
- 医師の診断書
- 申立手数料(800円分の収入印紙)
- 登記手数料(2,600円分の収入印紙)
- 郵便切手(後見、保佐・補助いずれかの役割により額面は変わります)
- 本人の戸籍謄本 など
申し立て後、家庭裁判所が必要と判断した場合は、裁判所から医師に「鑑定」を依頼し、当該障がい者の意思能力を医学的に判定します。裁判所ホームページによれば、鑑定が行われた場合に納める費用は10万円から20万円程度としています。
遺産分割協議などの相続手続き
成年後見人が選任されたら、相続人である障がい者に代わり、遺産分割協議に参加したり各種必要書類への署名・押印を行ったりします。これにより、相続手続きを進めていくことが可能になります。
障がい者の相続人がいる場合の生前対策
障がいを持つ人物が相続の権利を持っている場合は、遺産分割協議の際に適切な話し合いができないことも想定されます。いざというときに備え、元気なうちから次のような生前対策を行い、あらかじめ財産を分けておくのもいいでしょう。
家族信託
たとえば、障がい者である子を持つ親の場合、自分自身が認知症になったり死亡したりしたときのことを想定して準備を検討してみましょう。たとえば、信頼のおける家族と家族信託契約を締結して、障害を持つ子の生活費を継続して給付してもらうことも一つの策です。
家族信託を利用することで、親である自分に何かあったときでも、障がいを持つ子の生活を守ることが可能になります。
遺言書
障がいを持つ子に財産を残す方法として、遺言書を活用するのもいい方法です。ただし、障がいを持つ子以外にも相続人がいる場合は、遺留分に注意した財産分割が実現できるようにしましょう。
任意後見制度
障がいを持つ子の意思能力が十分である場合は、子を委任者とした任意後見制度を利用する方法もあります。任意後見制度は財産管理や療養看護に関する代理権を受任者に付与する契約なので、障害を持つ子の生活費の管理や入院などの諸手続の代理などを行うことができます。家庭裁判所により後見監督人が選任されますが、通常、法律の専門家が選ばれることが多いため不安に思うことはないでしょう。
まとめ
ここでは、障がい者の家族がいる場合、相続手続きに際して障害者控除が適用されるかどうか、本人の意思能力がどう判断されるかなど、重要なポイントについて説明してきました。加えて、信託契約や任意後見制度の理容、遺言書の準備なども照会しています。
通常、障害者控除の申し立ては申立人が行うことになっていますが、法律の専門家に書類作成や申請作業を依頼することもできます。当該業務を行うことができるのは弁護士もしくは司法書士になりますが、当行政書士事務所はあらゆる生前対策に精通しており、必要に応じて司法書士や税理士といった専門家と協力しながらトータルサポートを提供することが可能です。
無料相談もご用意しておりますので、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。