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ペット信託は有効か?高齢者が考えるべき老後のペット問題
多くの高齢者がペットを飼育していますが、自分自身がより高齢になったり病気で障害を負ったり、あるいは万が一のことが起こったりしたときのことを心配しているようです。大切なペットの面倒を見られなくなったり飼育崩壊してしまったりすることを避けるためにも、何らかの対策が必要だといえます。
【この記事の要点】
- 負担付遺贈は管理・監督がしにくい点に注意
- 家族信託契約は一般的でペット飼育にも対応しやすい
- ペット信託は専門の商品・対応業者などが少ない
- 遺贈・信託とも法に基づく仕組みであるため法の専門家に相談を
この記事では、高齢者が入院した場合や施設に入った場合、あるいは亡くなった場合などを想定し、負担付遺贈・家族信託・ペット信託による生前準備ついて説明していきます。どのような方法が自分とペットに合っているのか、どのような選択肢があるのかを知るためにも、最後まで目を通していただけると幸いです。
「負担付遺贈」を利用する場合
ペットに財産を相続させ、自分の死後のペットの生活環境を安定させたいと考える人は多くいます。しかし、法律上、日本ではペットを「物」として扱うため、ペットに財産を譲ることはできません。
ただし、負担付遺贈という仕組みを利用することで、自分の死後のペットの世話を第三者に託すことが可能です。つまり「ペットの世話を引き受けてもらう(負担)代わりに、贈与者の財産を受贈者に贈与する」という形を採ることができるのです。
飼い主としては、信頼のおける人物に負担付遺贈を行うことで一旦安心することはできるでしょう。しかし、実際に自分が死亡したあと、果たして約束通りにペットの世話をきちんと行ってもらえるかどうかまで見届けることはできません。負担付遺贈を選択する場合は、次に挙げるようなリスクが伴うことも理解しておくべきだと考えられます。
【受贈者は遺贈放棄できる】
民法では、受贈者が負担付遺贈を放棄することを可能としています。万が一放棄されてしまった場合、新たな飼い主が不在となるため、遺されたペットの飼育問題が再び発生してしまう可能性があります。
【実際にペット飼育を実行しているかわからない】
受贈者がペットの世話を約束通り行っているか確認あるいは監督するしくみがないため、ペット飼育の現状が明らかになりにくい点にも注意しましょう。贈与者である自分がすでに亡くなっている状態では、仮にペット飼育が正しく行われていなかったとしても対策することができません。
このような状態を回避するためには、遺言で負担付遺贈を依頼する前に、以下の準備を行っておくことが大切です。
- 受贈者が正しくペット飼育してくれる意思をあらかじめ確認しておく
- 遺言執行者を選任し受贈者に催告できる環境を整えておく など
【財産をペット飼育以外にも使われてしまう可能性がある】
受贈者は、ペット飼育を引き受ける代わりに贈与者の財産を受け取ります。しかし、受け取った財産をペット飼育のためだけに使うかどうか、監視することができません。
「家族信託」を利用する場合
自分が将来的に認知症になったり死亡したりしたときに備えて、信頼のおける家族に財産管理や処分などを託す仕組みを家族信託といいます。家族信託を利用して、自分の死後のペット飼育に備えることもできます。
【具体的なシチュエーション】
たとえば、高齢の人物が犬を飼っており、自分の健康状態が変化したり死亡したりした後の犬の世話について心配していたとします。子は賃貸住宅に住んでいるためペットを飼うことができません。そこで、万が一のことがあったときのために家族信託契約を締結しておき、動物愛護団体に引き取ってもらうか里親を見つけてもらうか、何らかの対策を講じておきたいと考えています。
【家族信託契約の締結】
上記シチュエーションを前提とした場合、以下の条件のもとで家族信託契約を締結する必要があります。
- 委託者:高齢の人物
- 受託者:子
- 受益者:高齢の人物
- 第二受益者:子
- 信託財産:飼い犬および現金
- 信託期間:飼い犬に里親が見つかるか飼い犬が死亡するまで
- 残余財産:子に帰属する
高齢の人物を委託者および受益者、その子を受託者および第二受益者、信託財産を飼い犬および現金とした信託契約を締結することで、ペット飼育に備えます。同時に、あらかじめ動物愛護団体などにペット飼育について相談しておきます。
高齢の人物が認知症になったり死亡したりしたとき、受託者である子は信託財産の管理を任されることになります。子は信託契約にしたがい、当該動物愛護団体などに飼い犬の引き取りを依頼し、信託財産から犬の飼育費用を支払っていくことになるのです。
もし、犬に里親が見つかったり死亡したりした場合、信託契約はそこで終了となり、残った財産は第二受益者である子に帰属します。
家族信託契約を利用してペットの飼育環境を守るときは、このような流れで仕組みを活用することになるのです。
「ペット信託」を利用する場合
ここまで、負担付遺贈や家族信託契約を利用したペット飼育問題の解決方法について説明してきました。よりペットにフォーカスした生前対策を採りたい場合、ペット信託というサービスを利用することも方法の1つになってくるでしょう。
【具体的なシチュエーション】
猫を飼っている高齢者がいたとします。高齢者は、自らの健康問題が悪化したり死亡したりしたとき、遺された猫の飼育環境はどうなるのだろうと心配し、ペット信託という方法を選択することにしました。ペット信託とは、確実にペットの世話を行ってくれる第三者もしくはペット信託専門業者を受託者とした信託契約の1つです。
【ペット信託契約の締結】
上記シチュエーションを前提とした場合、以下の条件のもとでペット信託契約を締結する必要があります。
- 委託者:高齢者
- 受託者:ペット飼育を引き受ける第三者もしくはペット信託専門業者など
- 受益者:高齢者
- 第二受益者:ペット飼育を引き受ける第三者もしくはペット信託専門業者
- 信託財産:飼い猫および現金
- 信託期間:飼い猫に里親が見つかるか飼い猫が死亡するまで
- 残余財産:第二受益者に帰属する
日本におけるペット信託の現状
高齢者にとって自分に何かあった後のペットの飼育問題は大変気がかりなものですが、日本では「ペット信託」というサービスを提供する業者・団体自体がまだ少なく、認知度も決して高くはないといえます。
そのような現状のなか注目を集めているのが、三井住友信託銀行が提供する「遺言信託(ペット安心特約付)」です。ペット専門の信託契約というよりは「ペットを主体とした遺言書の作成と執行を実現するサービス」だとしています。
遺言によりペット飼育者に費用を渡すことができる
自分の死後、ペットの世話をしてくれる人に向けた遺言書を作成しておきます。相続が発生したら、遺言執行者である三井住友信託銀行が遺産分割を行って、ペット飼育環境の実現を目指します。
ペット引き渡しに対応してくれる団体を紹介してくれる
当該団体は「一般社団法人安心サポート」といい、三井住友信託銀行およびグループ企業により設立されたものです。ただし、当該団体がペット飼育を引き受けるのではなく、死後事務委任契約をあらかじめ締結しておくことにより、ペット飼育を引き受ける第三者もしくはペット信託専門業者への連絡・ペットの一時預かり・搬送を行うものとされているようです。
ペット飼育に対応してくれる団体・業者は限られる
先に述べたとおり、日本では「ペット信託」という独立したサービスを提供する団体・業者は非常に少ないといえます。数少ない取り扱い団体を見つけたとしても、提供されているサービスは必ずしも信託契約をベースとしたものとは限らず、死後事務委任契約を活用したサービス・後見契約を活用したサービスなど、ペット飼育を受け入れるための方法は一様ではないようです。
飼い主の健康状態の変化や死亡が起こったとしても、ペットが変わらず正しく飼育されるためには、時間をかけて非営利団体や業者、責任を持った第三者などを探す必要が出てくるでしょう。
まとめ
負担付遺贈・家族信託契約・ペット信託という3つの方法について説明してきましたが、日本国内においてある程度体制を整えることができるのはどの方法か、できるだけ専門家に相談しながら決定していくことをお勧めします。
信託契約を利用した「飼い主死後のペット飼育」は、特に高齢者にとっては大きな問題であり、どのように解決すればいいか不安を抱きやすいテーマであるといえます。遺贈や信託は法律に基づく仕組みですので、当該ジャンルに詳しい法の専門家に相談してみるといいでしょう。
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