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遺言による贈与(遺贈)
遺贈とは
遺贈とは、遺言により無償で他人に財産を与える行為のことをいいます。遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができます。「遺産の3割」、「遺産の5分の3」など一定の割合で財産を指定する遺贈を包括遺贈といい、「甲土地を遺贈する」とか「★★銀行の預金全部を遺贈する」など遺贈する財産を具体的に指定する遺贈を特定遺贈といいます。
なお、遺贈は単独行為であるため遺言者の一方的な意思ですることができ、贈与契約のような契約行為とは異なります。
遺贈によって利益を受ける者を受遺者といい、。民法第990条では、「包括受遺者(包括遺贈の受遺者)は、相続人と同一の権利義務を有する」と規定されています。つまり、ここでいう包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するが、相続人そのものではないということになります。
相続と遺贈の関係
相続では、被相続人は遺産分割方法の指定(例・相続人AにB不動産を相続させる)と相続分の指定(例・Aの相続分を5分の3とする)をすることができますが、これらは見方によって、遺贈と非常によく似た機能を果たします。相続の機能と遺贈をどのように区別するか以下でご説明します。
<相続と遺贈の相違点>
相続(遺産分割方法の指定)と遺贈には、以下のような違いがあります。
①遺贈は相手が相続人である必要はないが、遺産分割方法の指定・相続分の指定は、共同相続人間での遺産分割を前提としているので、相手は相続人に限られる。
②遺贈の場合、受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができる(特定遺贈の場合)が、遺産分割方法の指定の場合、相続人は相続そのものを放棄しなければ放棄できない。
③登記手続きは、遺贈の場合、登記義務者たる相続人との共同申請になる(遺言執行者がいない場合)が、遺産分割方法の指定の場合、単独申請での移転登記が可能。
④目的物が農地の場合、遺贈なら所有権移転に農地法の許可が必要(特定承継)だが、相続(包括承継)の場合は不要。
事例で相続と遺贈の違いをご説明しますと、例えば、被相続人Aに相続人として妻Bと子CDEがおり、子Dの夫としてFがいたとします。
①甲土地は、「Cの相続とする」
②乙土地は、「Fに譲る」
③丙土地は、「Eに相続させてください」
この場合、②については、Fは相続人ではないので遺贈と見て問題ありませんが、①と③ついては、C・Eは相続人なので、C・Eに対する遺贈と見ることもできるし、遺贈ではなく、相続分は法定相続分での相続を前提とし、遺産分割方法はCには甲土地を相続させ、Eには丙土地を相続させる意思表示だという見方もできます。(遺産分割方法の指定)
当初、裁判所は「相続させる」という文言を用いた遺言により、遺産分割を不要にするという取扱いは認めていませんでしたが、その後の判決で、この方式の遺言(相続させる遺言)により、遺産分割を経ることなく直ちに相続人に所有権が帰属するという取扱いを認めました。 この「相続させる遺言」はつまり、遺産分割方法の指定であると解釈されています。
<相続と遺贈の共通性>
相続と遺贈には以下のような共通点もあります。
①同時存在の原則
遺贈の場合にも同時存在の原則が働きます。そのため、受遺者は遺言の効力発生時に生存していることを要し、遺贈者の死亡以前に受遺者が死亡したとき(遺贈者と受遺者が同時に死亡した時も含む)は、遺贈は効力を生じません。また、同時存在の原則に胎児の例外が認められる点も相続と同じです。つまり、遺言効力発生時に胎児であれば受遺者として認められます。(ただし、胎児が死体で生まれたときは認められません)
②相続欠格者
相続と同じく相続欠格者(詐欺・脅迫などによって遺言をさせた者など)は、受遺者になれません。
負担付遺贈とは
負担付遺贈は、遺贈の一種ですが、受遺者が遺贈を受けることができるのと引き換えに一定の義務を負担するものをいいます。受遺者は遺贈の目的の価額を超えない限度内においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います。つまり、遺贈を受けた財産等の価額を超えてまで負担を負う必要はありません。また、遺贈の目的物の価額が遺留分減殺請求権の行使などで減少した場合、その減少した分に応じて、義務を免れます。ただし、遺言に別段の意思が表示されている場合は、その意思に従います。
また、受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができます。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。
なお、負担付遺贈によって受遺者が負担した義務を履行しない場合、 相続人は、 相当の期間を定めて履行の催告を行い、 それでも履行がない場合は、 その負担付遺贈にかかる遺言の取消しを家庭裁判所に対して請求することができます。
参考文献:「東京大学出版会 民法Ⅳ 親族・相続 内田貴著」