身体や心に障がいを持つ人が遺言書を残したいと考えた場合、どのような点に注意すればいいのでしょうか。障がいといってもその種類や程度はさまざまですので、答えは一様ではありません。障がいがあることで遺言書の作成が困難になってしまうのか気になるところです。
【この記事の要点】
- 知的障害者は「意思能力の有無」が遺言書作成の可否を左右する
- 身体障害者は公正証書遺言を利用することで遺言書を作成できる場合がある
- 身体障害の程度が重度である場合は遺言書作成が困難なこともある
- 言語障害者・聴覚障害者・視覚障害者は遺言書を作成できるか
- 公証人との事前打ち合わせが重要
ここでは、知的障害者、重度の身体障害者、あるいは言語障害者・聴覚障害者・視力障害者の人について、遺言書を遺すことができるのか、またその方法について説明していきます。ケースにより遺言書作成が認められないこともあるので、遺言書を遺したい障がい者の家族は、本人をどうサポートすればいいか考えるための材料になれば幸いです。
知的障害者による遺言書作成
民法では、以下に該当する人は遺言書を作成することができないとしています。なお、遺言書は本人のみが作成可能であり、代理人が代理することはできません。
- 15歳未満の人
- 意思能力がない人
- 被成年後見人で意思能力の回復がない人
「被成年後見人で意思能力の回復があるか」という点については、主に認知症などになった人を対象とした要件だといえます。知的障害者の場合は「意思能力があるか」が重要ポイントになってくるのですが、そもそも意思能力とはどのような能力を指すのでしょうか。
意思能力について理解する
意思能力とは、「自分自身が法律行為を行った際、自分の義務や権利にどのような変化が生じるかを理解できる能力」だと言い換えることができます。法律行為を行ったことにより、どのような結果が待ち受けているかを正しく理解する能力ともいえます。
したがって、意思能力がない者が行った法律行為は無効であり、この点については、民法第3条の2に明記されています。遺言書の作成も法律行為ですから、意思能力がないと判断された知的障害者は遺言書を作ることができないと考えることができます。
しかし、すべての知的障害者が意思能力を備えていないとは限りません。このような場合は個々の障害者の状態を客観的に判断することになるようです。たとえば、自治体の障害者支援サービスの利用に際し、障害支援区分がどのように記載されているかを判断材料とすることもあります。
身体障害者(軽度・重度)による遺言書作成
身体障害者は、その意思能力に問題がなければ遺言書を作成することができそうです。ただし、障害の程度によっては遺言書の種類を考慮する必要があるでしょう。手足の動きや会話、視認に不自由がある場合と、麻痺など重篤な障害がある場合に分けて考えてみます。
手足の動きや会話、視認に不自由がある場合
意思能力に問題はないが、手足を自由に動かすことができない・うまく話せない・目が見えないといった障害を持つ場合は、自筆証書遺言か公正証書遺言を利用するといいでしょう。法的に正しい遺言書を作成したいなら、公正証書遺言を選択した方が確実性があります。
公正証書遺言は公証人を介して遺言書を作成する方法であり、以下のような点で障害を持っていても十分カバーされることが期待できます。
- 字が書けなくても公証人に口頭で遺言内容を伝えることができる
- 公証人は聞き取った遺言内容を正しく記録する
- 手話など通訳の介在が認められている
また、民法では、障害により遺言者が公正証書遺言に署名することができない場合でも、公証人がその旨を付記することで署名に代えることができるとしています。
麻痺など重篤な障害がある場合
ここでいう「重篤な障害」とは、複数の障害を合わせ持つ場合や脳性麻痺などによる全身障害などを指しています。このようなケースでは、本人による意思の伝達が簡単ではないことも多く、遺言書の作成が事実上困難となる可能性に留意しましょう。
重度の身体障害を持つ場合でも、公正証書遺言を利用して遺言書を作成すること自体は可能です。前述の通り、公証人によるサポートや通訳の介在などが認められているため、重度障害であっても意思伝達ができれば可能性は見えてきそうです。
ただし、字が書けず発声も困難であるといったような場合は、公証人とのコミュニケーションに影響することを踏まえる必要があります。公証人が遺言者のもとに出張して公正証書遺言を作成することも可能ですので、どのような手段であれば公正証書遺言を作成できるか、事前に公証役場に相談してみることが大切です。
言語障害者・聴覚障害者・視力障害者による遺言書作成
ここでは、言語障害者・聴覚障害者・視力障害者に分けて、それぞれの立場における遺言書作成の方法を整理していきます。
言語障害者の場合
言語障害者は遺言書作成におけるハードルが比較的低いといえるので、自筆証書遺言と公正証書遺言のいずれも選択することができそうです。
自筆証書遺言
自筆証書遺言書を作成する際は、遺言内容を自筆することに加え、作成日の記入や署名押印する必要があります。言語障害があっても、これらの作業を行うことに問題はないため、自筆証書遺言を選択することができます。
公正証書遺言
公正証書遺言を作成する際、公証人の前で遺言内容を口頭で伝える必要があります。ただし、言語障害により口授ができない場合は、通訳を介在させることによって遺言内容を伝えることが認められています。このことから、言語障害者が公正証書遺言を利用することは可能だといえます。
聴覚障害者の場合
聴覚障害者も、遺言書作成におけるハードルが比較的低いといえます。
自筆証書遺言
聴覚障害をもっていても、自筆による遺言書作成・署名押印は可能ですので、自筆証書遺言を選択することができます。
公正証書遺言
聴覚障害者も、公証人に遺言内容を口授する際、通訳をつけることで公正証書遺言の作成を行うことができます。
視覚障害者の場合
視覚障害者の場合は、公正証書遺言を選択した方が良さそうです。
自筆証書遺言
自筆証書遺言を作成するためには、遺言全文・作成日・署名を自書する必要があります。視覚障害を持っている場合、自書する作業が非常に困難であることから、選択肢から外れることが想定されます。
公正証書遺言
視覚障害者は「口頭で公証人に遺言内容を伝える」ことができます。口授した内容は公証人によって読み上げられますが、口授した内容と相違ないかを確認することもできるので、公正証書遺言を利用することが可能だといえます。なお、視覚障害により署名ができなくても、公証人がその旨を記載することで解決しますので問題ありません。
事前に公証人との打ち合わせを
障がいを持つ人が遺言者である場合、障害者と公証人の双方においてどのような事前準備が必要か、あらかじめ打ち合わせておくといいでしょう。障害者本人による打ち合わせが困難である場合、代理を務める人が責任をもって公証人との調整に臨みましょう。
また、遺言書は法律行為ですので、「遺言者が遺言書の内容を正しく理解していること」が前提となります。障害者本人の意思能力・理解力・記憶力などに問題がないことを客観的に証明(意思による診断書等)しておくなどの準備も必要です。
同時に、法的に有効な遺言書の条件についても、あらかじめ把握しておくことが求められます。遺言に係る法的知識を学んでおくことで、障がい者の遺言書作成をよりスムーズに進めるよう備えておきましょう。
まとめ
障がいを持っているからといって、すべてのケースで遺言書を作成できないということはありません。個々の障がいの状態によって、遺言書の作成可否や適切な遺言方法が変わってきますので、あらかじめ専門家に相談してみるのも1つの方法です。
当行政書士事務所では、遺言書の作成を始めとする生前対策の経験が豊富ですので、まずは無料相談をご利用いただき、お気軽にお問い合わせください。










