相続人が1人しかいない場合、遺産分割協議を行うことなくその人物が1人で遺産を相続します。しかし、「唯一の相続人が認知症である」という場合はどのように対応すればいいのでしょうか。
【この記事の要点】
- 認知症の人が唯一の相続人となるケース
- 認知症の相続人が「できないこと」とは
- 対策:成年後見制度の利用
- 対策:遺言書の作成
ここでは、唯一の相続人が認知症である場合の対処方法について説明していきます。
認知症の人が単独相続人となるケース
認知症の人が単独で相続人となるケースには、大きく分けて2通りあります。
認知症の兄弟姉妹が相続人になるケース
子を持たない被相続人が亡くなった場合、相続の権利はその兄弟姉妹に移ります。しかし、その兄弟姉妹が認知症であれば、「認知症の相続人」となり相続手続が困難になってきます。被相続人が高齢で亡くなる時には、その兄弟姉妹も高齢なことが多く、必然的に年齢による認知症発症率も高くなる傾向にあります。
遺言作成後に認知症を患ったケース
たとえば夫婦のうち夫が生前に遺言書を作成し、「自分の死後はすべての財産を妻に相続させる」とした場合について考えてみましょう。夫が亡くなった時点で妻が元気であれば、相続人として問題なく遺産を受けることができます。しかし、夫が亡くなった時点で妻が認知症を患っており、遺言執行者も指定されていなかった場合、自分では相続手続を進めることができず、次に挙げるような問題点があらわになってくるでしょう。
一方、遺言書は、唯一の相続人となる人物が認知症であるケースにおいて、非常に有効な対策であることに違いありません。遺言書については後述しますので、まずは「相続人が認知症の場合できなくなること」についてみていきましょう。
相続人が認知症の場合できなくなること
相続人が認知症である場合、通常とは異なり「できなくなること」が発生します。認知症により本人の意思能力や判断能力が著しく低下することがあるからです。民法3条の2では、意思能力がない状態で行われた法律行為は無効となる旨も明記されています。
遺産分割協議が成立しなくなる
認知症の相続人が遺産分割協議に合意したとしても、その意思能力が十分ではないと判断される可能性が非常に高いことから、その遺産分割協議は無効とされるでしょう。本来であればすべての相続人による合意が必要ですから、遺産分割協議自体が成り立たなくなってしまう恐れがあります。
相続放棄できなくなる
何らかの理由から、認知症の相続人が相続放棄を希望したとしても、その法律行為が認められず無効となってしまう可能性があります。
複数の相続人の中に認知症の人物がいる場合はもちろん、唯一の相続人が認知症だった場合も、当該相続人が行う法律行為は無効とされるため、次に述べるような対策により状況を克服する必要がありそうです。
認知症の相続人を支援する成年後見制度
認知症の相続人に代わり、その子などが代理で相続手続をサポートすることはできません。仮に、認知症の相続人がその子にさまざまな手続きを委任したとしても、委任自体が法律行為であることから認められないということになってしまいます。
成年後見制度で認知症の相続人を支援
そこで検討したいのが、成年後見制度です。認知症の人物が唯一の相続人である場合、遺産分割協議を行う必要はないものの、相続手続を行うことができないため、成年後見制度による支援を受けることが最善の策になってくるでしょう。
【成年後見制度】
成年後見制度は、認知症などによりその判断能力が不十分だとされる者を保護するためのものです。判断能力が不十分であるため、訪問販売などによる高価な物品の購入を始めとする「不利な契約」を締結してしまう恐れがありますが、成年後見制度を利用していればそのようなリスクから本人を守ることができるでしょう。具体的には、成年後見人を代理人とし、認知症の人の財産管理や法律行為を代理してもらうことになります。
なお、成年後見制度では、本人の認知症などの程度により、補助・保佐・後見のいずれかの役割を担った人物を家庭裁判所が選任します。
成年後見制度の利用により可能になること
成年後見制度を利用し後見人がつくことで、認知症の相続人は次のような法律行為に参加することができるようになります。なお、補助人や保佐人の場合は借金、相続の承認や放棄など一部の行為について同意または取り消すことができます。代理行為については、申し立てに基づき家庭裁判所が定める行為について認められています。
遺産分割協議
成年後見人がいれば、法律行為ができなくなった本人を代理して遺産分割協議に参加することができます。これにより、法定相続分をしっかりと確保できることが期待されます。
相続放棄
成年後見人は本人の利益になることを前提とし、相続放棄や限定承認の手続きを行うことができます。
相続登記・相続税申告
遺産に不動産が含まれていた場合は相続登記をしなければいけません。また、相続税が発生することが予想される場合は、相続税の申告手続きも必要です。成年後見人がいれば、これらの手続きを代理することも可能です。なお、相続登記や相続税申告には専門的知識を要することから、専門職が選任されることが多いといえます。
元気なうちからできる生前対策
元気なうちに対策を講じておくことで、いざというときに周囲が適切なサポートを行ったり相続手続きをスムーズに進めたりすることができるようになります。
遺言書の作成
自分が亡くなったときに唯一の相続人となる人物が認知症である場合、元気なうちに遺言書を作成し、自分の死後の対応について具体的な要望を明記しておくといいでしょう。遺言書があれば遺産分割協議を行う必要がなくなるため、相続人が認知症であっても手続きがストップすることがありません。
では、実際に誰が「認知症である唯一の相続人」に代わり相続手続きを行うことになるのでしょうか。このとき重要になるのが、遺言執行者の存在です。遺言内容にしたがって相続手続きを行うのが遺言執行者の仕事ですから、認知症である唯一の相続人の関与なく遺言書の内容を実現できることになります。成年後見人をつけなくても相続手続きを進めることが可能です。
もし、自分が亡くなった後の推定相続人が1人だけで、その人物が認知症になる恐れがあったりすでに認知症だったりする場合は、元気なうちに遺言書を作成して遺言執行者も指定しておき、万が一に備えておくことをお勧めします。
まとめ
唯一の相続人が認知症である場合、遺産分割協議や相続登記、相続放棄といった各種の手続きができなくなってしまいます。被相続人が何も対策せず亡くなってしまった場合は成年後見人をつけて対応するほかありませんが、被相続人が健在であるうちに遺言書を作成しておくことで、さまざまな問題点をクリアできそうです。
当事務所では相続全般についてご相談・ご依頼を数多く承っております。また、相続をスムーズ化させるための遺言書作成についても力を入れていますので、認知症の方が相続人となるケースについて憂慮されている方は、ぜひ無料相談をご利用いただきお話をお聞かせください。










