錯誤によって相続放棄をしてしまったらどうなるか

「錯誤」とは、平たく言えば重要な点についての勘違いです。相続放棄に関してよくあるのは、次のようなケースです。

 

  • 「被相続人(亡くなった人)に財産はほとんどなく、借金ばかりだ」と聞かされて放棄した
  • 実際には多額の不動産や預貯金があったのに、その事実を知らずに放棄してしまった
  • 家族から「全員が放棄することになっている」と説明され、そのまま署名・押印した

 

このようなとき、「勘違いだったのだから相続放棄を取り消したい」と考える方が多いのですが、相続放棄はそう簡単にはやり直しできません。

 

相続放棄は原則として撤回できない

相続放棄は、家庭裁判所に申述し、申述が受理された時点で効力が生じます。一度正式に受理されると、後から「やっぱり放棄しなければよかったので撤回したい」という理由だけでは、原則として撤回(取消し)は認められません。

 

「気が変わった」「よく考えたら損だった」という理由だけでは十分ではなく、相続放棄という制度自体の安定性を守るため、例外的な場合にしか取消しは認められないのが実情です。

 

例外的に相続放棄の取消しが認められる場合

とはいえ、すべての放棄が絶対にやり直し不可というわけではありません。民法の規定により取消しが認められる場合があります。典型的には、次のようなケースが該当します。

 

未成年者・判断能力の弱い方の場合

たとえば以下に該当する場合、判断能力を保護する趣旨から、例外的に取消しが認められる可能性があります。

  • 未成年者が、親権者など法定代理人の同意を得ないで相続放棄をした場合
  • 成年被後見人本人が単独で相続放棄をした場合
  • 被保佐人が、保佐人の同意なく放棄をした場合
  • 補助人の同意が必要な場合に、補助人の同意なく放棄した場合

 

後見人・後見監督人の関与が不適切な場合

後見監督人がいるのに、後見人がその同意を得ずに被後見人を代理して放棄した場合、相続放棄の取消が認められることがあります。

 

後見人・後見監督人

判断能力に不安がある方を家庭裁判所が保護する枠組みの中で選ばれる人たちで、その同意や手続に問題があるときは取消しの対象になり得ます

 

詐欺・強迫による相続放棄だった場合

「詐欺・脅迫による相続放棄」とは以下のような状況を指しています。

 

詐欺による相続放棄例

  • 嘘の説明(「財産は一切ない」など)を信じ込まされて放棄した場合

 

脅迫による相続放棄例

  • 脅されて、やむなく相続放棄の書類に署名・押印させられた場合

 

相続放棄の取消しには「期限」がある

錯誤・詐欺・強迫など、取消しの理由が認められる場合でも、いつまでも取消しができるわけではありません。民法では、取消権の期間制限を次のように定めています。

 

  • 取消原因(詐欺に気付いた時、強迫状態がやんだ時など)を知ってから6か月以内に行使しないと、取消権は時効で消滅する
  • たとえ原因に気付かなかったとしても、相続の承認又は放棄の時から10が経過すると、やはり取消権は消滅する(除斥期間)

 

また、相続放棄の取消しをするには、家庭裁判所に対して「取消しの申述」を行う必要があります

 

錯誤が疑われるときの対応

錯誤や詐欺・強迫などが疑われる場合、次のような順番で対応を検討するのが現実的です。

 

いつ・どのような説明を受けて放棄したのかを書き出す

いつ・誰から・どのような内容で・どんな資料や状況を見せられて判断したのか、カギとなるポイントを書き出して状況を客観的に整理します。

 

相続財産の全体像と自分の過失有無を把握する

後から判明した財産・負債はなかったか、当時調査すれば分かった内容なのか、自分に「重大な過失」と評価され得る事情がないかなど、相続財産の全体像や相続放棄を行った自分自身の過失について冷静に判断する必要があります。

 

取消の期限を確認する

相続放棄の取消が可能な手続き期限は、「詐欺・強迫に気付いた日、錯誤に気付いた日から6か月以内」とされています。また、「放棄の日から10年」を経過していないかも含めて確認しましょう。

 

専門家に相談して取消の申述や訴訟提起を検討する

場合によっては家庭裁判所に対する取消の申立てや、必要に応じて、無効確認訴訟・取消しの訴え等で争うかどうか検討することになるかもしれません。非常に専門的かつ繊細な段階になりますので、すみやかに専門家に相談することが大切です。

 

まとめ

相続放棄は、一度家庭裁判所に受理されると、原則として撤回・やり直しは不可です。ただし、以下に該当する場合は、例外的に相続放棄の取消が認められることがあります。

 

  • 未成年者・成年被後見人・被保佐人等の保護の必要が高い場合
  • 後見人・後見監督人の同意が必要なのに欠けている場合
  • 詐欺や強迫によって放棄させられた場合

 

「勘違いかもしれない」「騙されていたような気がする」と感じたら、できるだけ早く事情を整理し、相続に詳しい専門家に相談することが何より重要です。

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