高齢の親が自分の将来に備えて財産管理を子に託す、といった対策を採ることがあります。これを家族信託といい、親の認知症への有効な対策の1つとして多くの人の関心を集めています。
しかし、家族状況に大きな変化があったり受託者による財産管理に不安が生じたりした場合など、家族信託を途中でやめたいと考えることがあるかもしれません。
【この記事の要点】
- 家族信託契約を途中解除できるケースとは
- 「特別の事情」または「公益の確保」とは
- 信託財産の清算手続きは誰が行いどのような内容か
- 不動産の登記手続きに関する通達
- 信託終了後の課税の有無について
ここでは、家族信託契約を途中で解除する際の条件と清算手続きについて説明していきます。財産が絡む重要な契約の途中解除ですので、できるだけ専門家に相談しながら対処していきましょう。
家族信託契約を途中解除できるケース
委託者の財産管理を受託者に任せることにより、委託者が将来的に認知症などになっても、その生活や医療・介護環境への心配を軽減できる点が家族信託契約の大きなメリットであるといえるでしょう。
一般的に、親が委託者・子が受託者となって家族信託契約を締結する事例が多いですが、一方で、諸事情から途中で家族信託契約の解除を検討するケースもないわけではありません。ただし、一度締結した家族信託契約を解約できるのは、以下に挙げる状況が確認された場合に限られます。
家族信託契約の解約について委託者と受託者が合意した場合
家族信託契約は委託者と受託者により締結されますので、両者が合意した場合は解約することが可能です。委託者と受託者がよく話し合ったうえで、解約することが望ましいという結論に達していることが非常に重要になってきます。
なお、たとえば委託者が認知症を患い、意思能力を著しく欠いているとみなされる場合は、「両者の合意」にいたらないため、家族信託契約を解約することができない可能性があります。
契約に定めた終了事由が起こった場合
家族信託契約を締結するにあたり、あらかじめ「どのような状況が発生したら契約終了とするか」を定めておくことができます。具体的には以下のような例が考えられます。
- 委託者・受託者が死亡したとき
- 受託者・受益者が死亡したとき
- 委託者と受託者および受益者が合意したとき など
終了事由がない場合
委託者と受託者が合意しており、かつ「特別の事情」または「公益の確保」を理由とする場合は、家族信託契約に終了事由が定められていない場合でも契約を終わらせることができます。
「特別の事情」
受託者と受益者の関係性が著しく悪化した場合や受益者の認知症が劇的に回復した場合など、家族信託契約を終了させた方が受益者の利益に適うと判断されるケースがあり、これらを「特別の事情」といいます。
委託者や受託者、あるいは受益者が裁判所に申立て、裁判所が「信託の終了」を命ずることにより契約が終わるのです。
「公益の確保」
以下に示すような「公益」を確保できず、信託契約を続行させることが適当ではないと裁判所が認めたとき、信託法にもとづき信託の終了を命ずることができます。このとき申立人となることができるのは、委託者・受託者・法務大臣・信託債権者や利害関係人です。
【公益の確保ができないと判断される例】
- 債務逃れ・脱税など家族信託契約を悪用したとみなされた場合
- 受託者が、関連法や信託契約に定められた権限を著しく逸脱したり乱用したり、または刑罰相当の行為をした場合で、法務大臣からの書面による警告に従わず、継続的または反復して当該行為を行った場合
家族信託終了後の「清算手続き」
家族信託契約が終了したら、通常は信託契約における受託者が「清算受託者」となり信託財産の清算手続きを行います(場合により別の人物が清算受託者に指名されることがある)。清算手続きの内容についてみていきましょう。
未払いの債権回収
信託金銭の管理を行っていた口座を解約し、金銭を回収します。また、アパートなどの収益不動産が信託財産に含まれている場合は、清算受託者が未払い賃料などの債権回収を行う責任を負います。
未払い債務の弁済
債務がある場合は信託財産から返済を行います。また、信託期間中に受益者の医療費や施設利用料などの債務が発生し未払い分が残っている場合は、その返済も実行します。
帰属権利者に対する残余財産の分配
債権の回収および未払い債務の弁済を終え、なお信託金銭に残りがある場合は帰属権利者に分配します。帰属権利者とは、信託法にもとづき信託契約において定めた人物を指します。
信託契約終了にともなう不動産の名義変更
信託財産のなかに不動産が含まれている場合は、信託期間終了にともないその名義を受託者から帰属権利者に変更し信託抹消登記をすることになります。
信託期間開始時点で不動産の名義人は受託者となっていますから、残余財産の分配を行うにあたり、不動産の所有権を帰属権利者に変える必要があるのです。
不動産の所有権移転および信託抹消の登記
家族信託契約にともない、不動産については受託者名義での登記および信託登記されることになります。したがって信託終了時点では、所有権移転登記と信託抹消登記の両手続きを行う必要が出てきます。
【信託財産を受託者の固有財産とする旨の登記の可否について(通知)】
従来、信託不動産の名義変更手続きについては法務局によって取り扱いに違いがあるとされ、「受託者個人が手続きできるのか、あるいは相続人全員の関与が求められるのか」といった点が指摘されていました。
これについては、令和6年(2024年)1月10日付で、法務省による「信託財産を受託者の固有財産とする旨の登記の可否について」という通知があったことで、受託者個人を帰属権利者とした登記手続きが可能になったことがわかりました。
受託者が帰属権利者である場合、受託者は単独で以下の登記手続きを行うことができることができます。
- 受託者かつ帰属権利者を受益者とする変更登記
- 当該不動産が受託者固有の財産となった旨および信託抹消登記
この通達が問題解決の大きな一歩となり、現場および関係者の混乱を解消することが期待されています。
信託終了にともなう課税の有無
家族信託を途中でやめたとき、誰が帰属権利者になるかによって課税状況が変わってきますので、あらかじめ理解しておきましょう。
帰属権利者が受益者である場合
信託終了にともない受益者が自ら信託財産を得る場合は非課税となります。受益者が委託者でもあり、信託財産がもともと受益者(委託者)のものであるとすれば、信託財産による利益が実質的に移動しないため課税対象とはなりません。
帰属権利者が受益者以外の者である場合
信託終了にともない受益者以外の者が残余財産を取得する場合は贈与税が課税されます。信託財産のもとの所有者(委託者・受益者)から別の人物に利益が移転したことになるためです。
受益者の死亡により信託終了となる場合
家族信託契約において「受益者の死亡」を終了事由の1つとしていた場合、帰属権利者が得た信託財産に係る権利は相続あるいは遺贈の扱いとなり、相続税課税の対象となります。
まとめ
家族信託を途中で解除するときは、家族信託契約における取り決めや信託法にしたがい、正しく処理を進めなければなりません。信託終了事由の有無やその内容、また清算事務についても、専門的な知識をもって対応していく必要があるからです。
当行政書士法人は数多くの家族信託契約の取り扱い実績を有しており、さまざまなケースに対応してきました。もし、信託契約の途中解除についてお困りの場合は、速やかな対応を実現するためにもお早めに無料相談をご利用ください。










