任意後見契約とは
高齢化が進む中、「判断能力が低下したときに備えておきたい」というニーズが高まっています。任意後見契約とは、本人の判断能力が十分にある段階で、将来に備えて財産管理や身上監護を信頼できる受任者に委ねる契約です。
重要なのは、以下の点になってきます。
- 契約を結ぶ段階では本人の判断能力が正常であること
- 契約はすぐには発効せず、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した後に効力が生じること
この点が、判断能力の低下後に開始される法定後見(成年後見・補佐・補助)と大きく異なります。
任意後見契約の要となる「代理権目録」
任意後見契約では、代理権目録に記載された行為のみ任意後見人が代理できます。記載がなければどれほど必要な行為であっても代理できません。したがって、契約案の作成段階で次の2点が極めて重要になります。
(1)任意後見人に「何を任せたいか」を詳細に決める
本人が将来どのような生活を送り、どのような財産状態に置かれるのかは、個人によって異なります。そのため、代理権目録では包括的な内容ではなく、できる限り個別具体的に記載することが求められます。
(2)将来的に必要となりうる場面を想像しておく
たとえば、
- 高齢者施設に入所する可能性
- 自宅売却が必要になる可能性
- 医療・介護サービスの利用
- 相続発生時の遺産分割協議
などを想定した上で、必要な代理行為を目録に組み込む必要があります。
代理権目録の形式(第一号様式・第二号様式)
代理権目録には2種類の様式があり、公証人がこれに基づいて契約書を作成します。
■第一号様式(チェック式)
あらかじめ用意された項目から該当するものにチェックを入れていく方式です。
例:
- 不動産の売却
- 賃貸借契約の締結・変更・解除
- 介護サービス契約
- 金融機関との取引
- 医療契約
など、項目ごとに選択できるため、網羅性が高い形式です。
■第二号様式(自由記述式)
チェック項目はなく、依頼したい代理行為を直接書き込む形式です。必要な事柄を漏れなく記載する必要があるため、慎重な検討が不可欠です。法律専門家の関与が推奨される場面でもあります。
任意後見人に委任できる「財産管理」
任意後見人に認められている代理権は大きく「財産管理」と「身上監護」に分かれます。まずは財産管理の範囲を詳しく見ていきます。
(1)預貯金・金融機関取引
- 預入・引出し
- 振込・払戻し
- 定期預金の解約
- 口座管理
本人の生活費や医療費などを適切に支払うために不可欠です。
(2)不動産に関する行為
- 自宅の売却
- 賃貸借契約の締結・変更・解除
- 保存・管理・修繕
- 共有持分の処分
ただし、目録に明記がなければ代理できません。特に居住用不動産の売却は本人の生活に重大な影響を及ぼすため、事前の明確な記載が非常に重要です。
(3)生活費の支払い・契約行為
- 家賃、光熱費、水道料金
- 通信費の支払い
- 日用品の購入
- 配食サービスの利用契約
(4)年金・保険などの受領事務
- 年金受給手続き
- 障害者手当の受領
- 保険金請求・受取
(5)相続関連(遺産分割協議・相続放棄)
代理権目録に記載があれば、以下の行為が可能です。
- 遺産分割協議へ代理で参加
- 相続放棄手続き
任意後見人に委任できる「身上監護」
身上監護とは、本人の生活・介護・医療などに関する法律行為を代理することです。
(1)介護に関する契約
- 介護保険申請
- デイサービス契約
- 訪問介護契約
- 高齢者施設(有料老人ホーム等)入所契約
(2)医療機関との契約、入退院手続き
- 医療契約の締結
- 入院手続き、退院手続き
- 医療費の支払い
ただし、医療行為に対する同意そのものは行えない点に注意が必要です。(法定後見でも議論が多く、明確に認められていない領域です)
任意後見人に認められない行為
以下の行為は、代理権目録に記載があっても任意後見人には認められません。
(1)事実行為
- 本人の入浴介助
- 食事介助
- 排泄介助
- 送迎・付き添い
これらは介護職の業務であり、後見の範囲外です。任意後見人は必要に応じて介護サービスを手配することになります。
(2)本人死後の手続き
- 葬儀の手配
- 遺品整理
- 死亡届
これらは死後事務委任契約を別途締結する必要があります。
(3)本人以外の利益となる行為・財産処分
- 任意後見人自身の生活費として流用
- 第三者への贈与
- 財産の勝手な運用
- 他人の借金の担保提供
- 著しく不利な遺産分割協議
本人保護の原則に反するため禁止されています。
任意後見契約を有効化する「任意後見監督人」の選任
任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点でようやく発効します。監督人は後見人の業務をチェックし、本人の財産が正しく守られるよう見守る役割を担います。
監督人選任の申立てができる人
- 本人
- 配偶者
- 四親等内の親族
- 任意後見受任者
選任から業務開始までの流れ
- 家庭裁判所へ申立て
- 審判が行われ、選任決定
- 法務局へ登記
- 任意後見人が初回報告(財産目録・収支表など提出)
- 監督人による継続的な監督
- 本人死亡等により契約終了
任意後見監督人には弁護士・司法書士・行政書士など専門家が選任されることが多く、透明性の高い運用が行われます。
見守り契約との併用の必要性
任意後見は、本人の判断能力低下後に発効するため、発効前の段階では任意後見人は何もできません。そこで近年多いのが、任意後見契約・見守り契約・財産管理委任契約を同時に締結するケースです。
特に見守り契約は、定期訪問や健康状態の把握、必要な法律相談への対応などを行い、発効のタイミングを判断するために重要な役割を果たします。
まとめ
任意後見契約は、本人の意思を尊重しながら将来に備える強力な制度です。
しかし、任意後見人が「何をできて」「何ができないのか」は代理権目録により厳格に決まるため、契約内容の設計が最重要ポイントとなります。
弊社では、任意後見契約の設計支援や任意後見受任者としての実務対応、見守り契約との総合的な生前対策を行っております。任意後見を検討されている方や不安をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。










