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任意後見人が持たない取消権と法定後見人への変更について
自分の判断能力が低下したときに備えて任意後見契約を結ぶ人が増えてきました。しかし、任意後見人には「取消権」がないために、任意後見契約締結に二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょうか。ここでは、任意後見人が持たない取消権の概要と法定後見人への変更について説明していきます。
任意後見人が持たない「取消権」とは何か
年齢を重ねるごとに判断能力は低下していく傾向にありますが、うっかり「必要性は高くないのに高額な買物をしてしまった」「友人の借金の保証人になってしまった」といった行動を取ってしまうこともあるかもしれません。しかし、もし自分に成年後見人がいた場合、高額な購入や保証行為の引き受けといった法律行為をあとから取り消してもらうことができます。
任意後見人は取消権を持たない
一方で任意後見人の場合、これら法律行為の取消しを行う権限を持たないため、成年後見人と同じような役割を期待することができません。
任意後見制度とは、本人の判断能力が著しく低下したときに備えて、将来的な財産管理や身の回りの世話を託すものです。任意後見契約では「本人の意思」が非常に重視されているので、現時点において本人が高額購入や保証人の引き受けをしたとしても、本人の意思による行動であるとして取り消すことができないのです。
取消権のない任意後見人にできること
任意後見人に取消権が認められていないことは不条理であるようにも思えますが、任意後見制度の目的を考えると、やむを得ない一面があることも事実でしょう。
一方、取消権がないという弱点をカバーするためには、契約書に「任意後見人による取消権行使」について記載する方法も考えられます。これにより任意後見人は、詐欺や脅迫が起こったときの契約の取り消しに加え、高額商品を購入してしまった場合のクーリングオフ制度利用なども行うことができるとされています。
任意後見から法定後見に変更することはできるのか
任意後見契約は、財産管理や身の回りの世話など「本人の意思により将来起こる業務を任意後見人に託す」という、未来思考の性質を持っています。本人の未来の利益を守るために本人自らの意思で決める契約ですから、仮に任意後見人に取消権を与えてしまうと、「本人の意思」により行われる行為を否定してしまうことに繋がりかねません。主にこのような理由から、任意後見人には取消権を認めていないと考えられます。
任意後見人から成年後見人に変更することはできるか
では、取消権を持つ成年後見人に変更することはできないのか、疑問に思われるかもしれません。
成年後見人の業務は本人の後見・補佐・補助であり、将来的な業務委任を受ける任意後見人とは性質が異なっています。任意後見は成年後見より優先されるため、すでに任意後見契約を結んでいる人が後から成年後見の開始を申し立てたとしても、原則として認められないのです。
ただし、任意後見法第10条によれば、以下のように例外を認めています。
(後見、保佐及び補助との関係)
第十条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
※e-Govより抜粋
平成14年大阪高裁による判例を参照すると、「本人の利益のために特に必要がある場合」とは以下の場合を指しています。
- 任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である
- 合意された任意後見人の報酬額が余りにも高額である など
上記のように、「任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味する」状態が認められなければなりません。
※上山泰 著「任意後見契約の優越的地位の限界について」参照
まとめ
任意後見契約にはある程度制約が存在することからも、本人の意思決定能力にどの程度不安が持たれるか、任意後見契約に明記された代理権の範囲は十分かなど、状況を慎重に判断したうえで適切に対応する必要があります。
このように、任意後見契約には難しい側面もみられるため、検討されている場合はぜひ当事務所までご相談ください。一人ひとりの状況をしっかりとうかがいながら、最適な方法を見つけるお手伝いをさせていただきます。