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家族信託により共有名義の不動産をうまく分割した事例
被相続人が遺した不動産を、相続人同士の揉め事回避のためにあえて共有名義とすることがあります。遺言書がなければ遺産分割協議を行い、誰がどういう割合で不動産の所有権を相続するかを決めるのです。しかし、共有名義の状態は、後の不動産運用や売却などの際にトラブルの原因となることも事実です。ここでは、家族信託を組み合わせることによりスムーズな相続を可能にした事例について説明します。
不動産を共有名義とすることのデメリット
不動産を共有名義にすると、次のようなデメリットが発生する場合があります。
共有した不動産に対して拘束がある
不動産の共有名義とは、不動産を実際に分割して所有するということではなく、一つの不動産全体に対してどの程度の権利を有しているかを指しています。つまり、相続人2人の共有割合が2分の1ずつだったとき、不動産に対してそれぞれが半分ずつの所有権を持つことになるのです。したがって、不動産を修繕したり改築したり売却するなどする場合は、所有権を持つ2人がともに合意したうえでなければ実行することができません。
- 保存行為
修繕などを行う場合、所有権を持つ人物一人でも実行することができます。
- 管理行為
賃貸借契約など建物を運用したい場合、所有権を持つ人物の過半数の同意を得て実行することができます。
- 変更行為
建物を解体したり売却したりしたい場合、全ての所有権者による同意がなければ実行することができません。
相続により共有名義の構造がより複雑になる
親の死亡により、遺産である不動産を3人の子供の共有名義として相続した場合を考えてみます。兄弟姉妹間の関係性は良好であるため問題なく不動産の共有状態を継続してきましたが、うち一人が亡くなったことで権利関係が複雑になりました。亡くなった兄には子供が2人いるため、兄の共有持ち分は2人の子供たちに相続されることになったのです。
この時点で、不動産の共有者は3人から4人に増えることになります。同様に他の兄弟姉妹が亡くなった場合もその子供に共有持分が相続されるため、時間の経過に伴って権利者がどんどん増えていくことになってしまい、権利関係は煩雑化を辿る一方になります。共有名義で相続することは、その時点では非常に良い解決法のように思えますが、先々のことを考えると決して最良の策ではないともいえるのです。
共有名義の不動産は売却時に値が下がる
共有持分だけ売却しようとした場合、値が下がるリスクがあることも知っておきましょう。仮に相続した共有不動産に9,000万円の価値があった場合、共有名義人全員が合意すれば9,000万円で売却することができます。しかし、不動産が3人の兄弟により3分の1ずつの割合で共有されていた場合は話が変わります。
例えば兄一人だけが自分の持分である3分の1だけを第三者に売却する場合、単純計算では3,000万円で売ることができますが、共有財産であるという条件が価値をより低くしてしまうデメリットが生じるのです。本来なら3,000万円の価値があるところを、デメリットが作用してより安価でなければ売れない可能性が出てくる可能性が考えられます。
相続人である他の兄弟姉妹にとっても、共有財産を売却されることはあまり歓迎すべきことではありません。兄弟姉妹だったからこそ共有不動産の扱いがうまくいっていたのに、そこに第三者が入ることで全員の同意を得にくくなる可能性が出てくるからです。相続人である兄弟姉妹は思うように不動産を運用したり売却したりすることができなくなるという側面も見えてきます。
家族信託により共有不動産を相続人でうまく分けた事例
三人の子供を持つ高齢男性は、自分の名義で収益不動産を所有していました。建物の敷地は、自分と二人の子供でそれぞれ持分3分の1ずつの共有名義としています。しかし、男性は年齢を重ねるにつれ、近い将来もし自分の判断能力が著しく衰えてきた場合に備えて、不動産も売却した方がいいのではないかと考えたのです。
そこで問題となってくるのが共有名義となっている敷地の扱いでした。敷地の上には収益不動産が建っていることから簡単には処分できず、自分に万が一のことがあれば子供に託すほかありません。この先、不動産の扱いをできるだけスムーズにするためにも、単独名義に変更すべきか、法人化すべきか悩んでおられたところに当事務所までご相談いただいたので、家族信託という方法をご提案したのです。
家族信託の設計(スキーム)
男性の財産は相続税が課税される心配のない額ですが、やや扱いが難しくなりそうなのが不動産でした。仮に法人化して不動産を法人に売却する形をとった場合、多額の譲渡所得税が課税されることも気がかりです。そこで提案可能な策として、以下の設計が考えられます。
- 信託財産:不動産
- 委託者:男性・二人の子供
- 受託者:法人(法人化が前提)
- 受益者:男性(健在のうち)・二人の子供(男性が亡くなった場合)
男性が健在のうちは法人が不動産を所有した形で今まで通りの運用を行い、男性が亡くなったときは法人が不動産を売却し、得られた金銭を子供二人で公平に分けるご提案ができます。これにより、共有名義で難航しそうだった相続の問題を解決できますし、不動産を不動産名義にするのではなく受託者とすることにより節税対策にも繋がります。
まとめ
主に認知症対策として活用されることの多い家族信託ですが、本件のように共有名義の不動産をどう取り扱うかという問題を解決できる可能性も秘めています。財産を共有名義にしてしまったことで問題が顕在化しそうだったり将来的にどう相続させるかお悩みだったりするケースは少なくありませんので、ぜひ一度当事務所までご相談いただければ幸いです。